羽裏が破れて気づいたこと。張り替えと羽裏に向く生地の話

着物でハプニング

羽織を脱いだとき、羽裏が大きく破れているのに気づきました。
仕立ててから年数も経っていますが、やはりショックです…

卒業式のあと、気づいたこと

息子の卒業式が終わって、羽織を畳もうとしたときのこと。
裏の衿肩あきのあたりに黒い線がある…
なんだろう?

裏返してよく見たら、羽裏が裂けているのが目に飛び込んできて、胸がきゅっとした。
ああ…何てこと!

同時に、 直したら結構な出費になることが頭をよぎって、しょぼんとしてしまった。
いったんたとう紙に包んでしまって、しばらくは考えないようにしていたのだけど。
そろそろ真剣に、どう手あてするか考えなければ。

豪雪地帯の冬の記憶―羽裏の来歴

この羽裏には、ちょっとした思い出がある。

夫の転勤でとある北海道の田舎町(パウダースノーを求めてやってくるスキーヤーでいま外国みたいになっている場所)に住んでいた頃。

そこは文化の日くらいから雪が降り始め、4月下旬まで毎日降り続く街。
雪に閉ざされた日々で気持ちも沈みがちだった。

子どもは異常に手がかかる子で、私はいつも疲労困憊。
助けてくれる知り合いもいない場所での孤独な育児に、心は限界まですり減っていた。

そんななか、当時、毎日使用していた使い捨てコンタクトレンズを切らしてしまった。

この街では手に入らないから(いかに田舎か分かるよね?)、毎日眼鏡の生活。
それがまた憂鬱で。

夫に愚痴ったら、「子どもを見ているから、小樽に行っておいで」と言ってくれた。
早朝の汽車(電車じゃないよ)にひとり飛び乗り小樽へ向かった。

初めて乗る路線で景色がめずらしく、真冬の白銀の世界に魅了された。
北海道に生まれ育ち、雪景色など珍しくもない私でも心が洗われるような美しさだった。
久しぶりに一人になれた解放感から、思いがけず手にした“自分時間”にうっとりした。

小樽について街なかに踏み出しすぐのこと。
大きなホテルのすぐ隣に、閉店セールをしている呉服屋があった。
ふらふらと吸い寄せられるように入ってしまう私。
そこでこの羽裏にであったのだ。

子どもの入卒式に黒の羽織を着たいという憧れが、着物を着はじめたごく最初のころから私にはあった。

この子が入学する日には、きっと黒羽織を用意しよう。
いまはつらい毎日だけれど。

この時私が羽裏とともに買ったのは、未来への希望だったのかもしれない。
いまが辛くても先にはきっと嬉しいことがあるに違いない。
そう信じたい。

人生には絶対に必要なともしび。
灯台のあかりみたいな。

母のお見合い羽織との出会い

その後ほどなく、実家に帰省しているときに、母との着物談義の中で、 母が父とお見合いしたときに着ていた桃色の羽織を見せてもらった。

当時流行していた漆箔の羽織で、 「これは高かったんだよ」と母は少し誇らしげ。
けれど経年で茶色いシミが浮き上がっていて、 そのままでは着られなかった。

「お母さん、この羽織私にくれない?黒に染め替えて、学校行事に着たいの」
古いものだからそんなうまくいくかねぇなんて言っていたけど、思い出の羽織をあっさりくれた。

当時懇意にしていた呉服屋さんに持ち込んで相談したところ、「ええ、ええ、黒にするなら何の問題もありません」なんて拍子抜けするほどあっさり請け合ってくれて、くだんの羽裏を添えて仕立てに出した。

ほどなく仕立て上がって、甘やかな桃色の羽織は漆黒の、かなり貫禄ある風情で私の箪笥に納まった。

裏が破れた理由を考えてみる

新品の反物は、のりが効いているもの。

仕立てをせずに長期保管すると、そののりが悪さをして生地がかたくなったり、 カビが入り込んでシミになったり、極端な場合には裂けることがある—— という話は知識としては知っていた。

きっと私の羽裏が裂けたのもこれが原因だと思う。



透明のフィルムを紙で押さえて、つり下げて売っていた。
羽裏ではよくある展示の仕方。

その状態で何年も、もしかしたら何十年も売られていたのかもしれない。
なんせ、古い呉服屋の閉店セールだったのだから。

表地については「買ったら湯のしをしておく」を私はなるべく心がけてきた。
こうしておけば、新品ののりがついたまま保管するより、カビやシミから守れると聞いていたので。

でも、この羽裏については、湯のしなどは考えもしなかった。
どうせ裏だしと少し侮っていたのかもしれない。

思い返してみれば、固いな、がさついているなって感じていた気がする。
そのときにもう一歩、深く思案していれば、こんな裂けるなどという惨めなことにはならなかったのに。

羽裏って表地よりずっと薄くてデリケートだし、着物との摩擦もある。
傷む危険性という面からみれば、一番気をつけなければいけない類のものなのかもしれない。

今回の件で学んだし勉強にはなったけど。

後悔さきに立たず。
安物買いの銭失い。

ああ、ふところが痛い(泣)

張り替えの相場を調べてみた

気になって、羽裏の張り替えの相場も調べてみようと思ったが、予想どおりというか、裏だけの取り替えという条件では探せなかった。

ただ、全部をほどくことになるので、一から仕立てるのとあまり変わらない料金がかかることは覚悟しておいた方がよさそう。

ミシン仕立てだと、2万円を切る価格設定のショップも見つけたけど。
母の思い出の品だし、羽織の生地が古いことも心配なので、やはり手縫いが第一選択。

調べないで不安でいるより少し落ち着いたけれど。
痛い出費なのは間違いない…。

直すかどうかは、もう少し気持ちが整ってから考えようと思う。

🍀楽天市場で探してみたところ、羽織の手縫い仕立てで一番安かったのはこちらでした。サラッと検索しただけですが。そういえば、私、ここでお仕立てしたことがありました。単衣の紬訪問着をお願いして、満足な仕上がりだったのを思いだしました。


🍀京都きもの市場さんの羽裏。表地の色柄との兼ね合いにもよりますが、上品で無難ということでチョイスしてみました。安くもないけれど、高くもない。ちょうど良い価格帯だと思います。
閉店セールの古い羽裏で失敗した身としては、商品回転のよさそうなお店から選ぶのが安心という気持ちもあって(笑)


🍀羽裏に気に入った柄がないときは、長襦袢を羽裏に使うという方法もあります。
私も試したことがあって、成功した例もあるのですが、それは「たまたま手元にあった長襦袢生地の色柄が羽裏としてもOKだった」というだけで、その生地の性質が特別に羽裏向きだったわけではないのですよね。
試してみて感じたのは、“長襦袢らしさが前面に出ない柄で、ツルっとした生地感のもの”が羽裏として使いやすいということ。
綸子地に紗綾型地紋とかむじな菊の無地などは、羽裏にするとどうしても“長襦袢っぽさ”が出てしまうのですが、精華のようなツルっとした生地は羽二重に近い風合いで、羽裏としても馴染みやすいでしょう。
長襦袢を羽裏に使う場合は、「質感が羽裏に向いているかどうか」で選ぶと失敗しにくいと思います。お店の人に「羽裏として使いたい」と相談してみるのが一番ですね。


🍀羽織は上着だし汚れることも考慮すると、洗えるってとても良い選択肢だと感じています。こちらは私も持っていて、洗えると思うと気楽に着られるので重宝しています。春は花粉の多い季節でもありますし。


今日、書いてみて思ったこと

着物は衣類だから、汚れるし、劣化もするし、若くなるし。
ハプニングはそれなりにあるけれど。

破れたのは初めてでさすがに落ち込んでしまう。

豪雪地帯の冬の日々。
母のお見合い羽織。
息子の卒業式。

家族の思い出とエピソードを背負ってきたこの黒い羽織にまたひとつ、なんだか情けなくてちょっと笑える記憶がくっついてしまったようだ。

このままにしておいたら、ただの破れたみすぼらしい布になってしまう?

それならやっぱりお直しするしかないよねという、ほとんど悲愴ともいえる決意がふつふつとわきあがってきて、年齢とともに気弱くなってきた私の中に、久しぶりに強い気持ちが胸に広がってくるのを、いま感じている。

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