着物を着ていると、ときどき「布の人生って面白いな」と思う瞬間があります。
新品の反物だけが主役ではなくて。
ふとした出会いで手にした一枚が、
思いがけず長く寄り添ってくれることもある…
私にとってのその一枚は
スーパーのワゴンで見つけた500円の道行コートでした。
軽い気持ちで連れ帰った布が名古屋帯として生まれ変わり
気づけば25年以上も現役で活躍してくれている──
そんな小さな奇跡のような話を、今日は書いてみようと思います。

500円の道行コートとの出会い
着物を着始めたばかりの頃
スーパーのワゴンで一枚の道行コートを見つけました。
値段はたったの500円。
とんでもなくお安いのに表地にはシミひとつなく
とてもきれいな状態でした。
娘時代から着ている濃紺のウールで外出するときに着たりして
何度か着用して。
購入からしばらく経った頃
「コートから名古屋帯が作れる」ということを知り
当時絞りの帯が欲しかった私は
「これで帯を作ったらいいんじゃない?」と
思い立ちました。
名古屋帯に仕立てるまでの試行錯誤
着物に興味を持ち始めたばかりで
どこに頼めばいいのかも分からない状態。
とりあえず自分でほどいてみようと思い始めたのですが
これが想像以上に大変でした。
コートなのでミシン縫いですから
布を傷つけないように糸を切ることに難儀して。
要所要所がのりでくっつけている箇所もあって
朝からはじめてほどき終えたのは夜でした。
「もう二度とやりたくない」と思ったものです。
帯芯を買って自作できないかと目論んでいたのですが
この時点でキッパリあきらめました。
やはりプロに頼む方がいい。
自分でやって失敗して形にならなかったら
この苦労が無駄になる…
市内に気になっていた悉皆屋さんがあったので
思い切って飛び込んだのです。
「これで帯を作りたいんです」とお願いしたところ
こちらはドキドキだったのですが
女将さんは慣れた様子で
「はいはい、承りました」という感じであっさり引き受けてくださいました。
一方付けの小紋柄だから肩山で柄の向きが変わっている絞り。
その点を念押ししようと家をでたときは考えていたのに
なんだか口にすることができませんでした。
専門家に素人が口出ししてよいのか?みたいな
自制心が働いたのです。

道行コートの時は片山と袖山で模様の向きが変わっていた
「仕立てあがりました」という連絡をいただいて伺うと
さすがのプロの仕事。
一方付けの青海波のような模様の絞りは
すべて上向きになるように仕立てられて
美しい帯に変身していました。
それなりにお金もかかったけれど
「思い切って作ってよかった」と心から思いました。
あの時からもう25年くらい経ちましたが
今も大切に使い続けています。

前柄がシンプルだからこそ、帯留めで遊べる楽しさ

絞りの赤ってほんとうに可愛らしい。
手仕事の緻密さと偶然が生み出す絞り模様の表情は
どこまでも奥深くて
見ているだけで心が和みます。
前柄もお太鼓も同じ模様ですので
帯の模様としてはシンプルな部類。
そのぶん、帯留めで季節感や表情を変えられる楽しさがあります。
帯そのものが主張しすぎないから
どんな帯留めも受け止めてくれる。

最近メルカリで購入したチャコール小紋に合わせてみました。
落ち着いたチャコールグレーの地色に
赤い絞りの帯がふわっと華やぎを添えてくれる。
絞り模様の入った着物に絞りの帯。

頭で考えたときはどうかと思ったのですが
「意外にいいじゃない?いや、むしろ凄くいいよね!」と
自分でも思わずつぶやいてしまうほど
しっくりくる組み合わせでした。
布の“第二の人生”─価値ある布を慈しむ喜び
たった500円の道行コートが
25年間もずっとお気に入りでいてくれるなんて
あの頃の私は思いもしませんでした。
布には“第二の人生”がある。
どう生かすかでこんなにも長く寄り添ってくれる存在になるのです。
スーパーの催事場の白いワゴンに乱雑に置かれていたコートが
今でも目に浮かびます。
捨てられているものを拾うようにして持ち帰った絞りが
大切に和紙につつまれ安らかな顔をして眠っているのを見ると
運命の不思議を思います。
そのような来歴をもつ布を
宝物のように撫でまわしている自分が
すこし滑稽にも思うけれど好きでもあるのです。
慈しめば応えてくれる。
大切にすればするほどもっと愛おしくなる。
着物の世界は、こういう小さな奇跡があるから面白い。
絞りの布が持つ力を信じてよかったと
今は心から思っています。

おまけ:着物や羽織から帯に仕立て直すなら
私がコートから帯を仕立てたのは地元の仕立て屋さんですが、今はネットで“着物や羽織から帯に仕立て直すサービス”があります。
帯専門店「おびや」さんでも作れるようです。
「手元にある着物を帯にしたい」という方には、こういうサービスが便利だと思います。
帯ができあがったら小物のアドバイスをしてもらうのも楽しいでしょう。
帯って形がシンプルなので、「自分で作れるかも」って思ったことはありませんか?
こちらは、アップリケなどで帯のデザインまで自分でできちゃうアイディア満載の本で、見ていてとても楽しく、また考えさせられます。
豪華で高価なものだけが価値がある、と言い切れないところが着物の世界の面白いところ。
自分なりに楽しんだもの勝ちだわと思わせてくれる本です。
チャコールグレー小紋に赤の絞りの今日のコーディネートには、こんな帯揚げがあったらもっといいと思います。映える装いになりそう。
色合わせがしやすく、どんな帯にも合わせやすい万能カラー。 価格も控えめなのに、写真映えが良くて“きちんと感”が出るので、 リメイク帯との相性もよさそうです。


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