書評:林真理子『着物の悦び』②|15年ぶりの再読で気づいた「縛られていた自分」

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15年ぶりに『着物の悦び』を読み返してみたら、これまでの私はこの本にずいぶん影響を受けていたのだと気づきました。
憧れと一途さのあまり、林真理子さんの価値観をそのまま“自分のルール”にしていた部分があったのです。
今回は、再読して初めて見えた「縛られていた自分」について書いてみます。

※前回の書評はこちら
林真理子『着物の悦び』|失敗しても好きでいる気持ちを見つめる


書 名   着物の悦び
出版社   新潮文庫  
発行日   1996/12/1

15年ぶりの再読で気づいたこと

この本を初めて読んだのは、たぶん28歳くらいだったんじゃないかなと思います。
着付け教室に通い始めて1年後くらいかな?

長いこと愛読書でしたが、子育てで忙しかったのと、夫の転勤に伴う引っ越しで本を処分したりもしたので、いつのまにか手元になくなってしまって。
どうしてもまた読みたくなって、ごく最近メルカリで手に入れました。

読んだのは15年ぶりくらい。
思い出しながら楽しく読んで、共感できることなどは前回記事にまとめたのですが、ここからは違和感を感じた部分を少し書いてみたいと思います。

一番の違和感というか、読みながら随所で思ったのは、私はこの本に随分縛られていたんだなっていうことでした。
着物の世界の入り口で読んで、魅力に取りつかれて、憧れを抱いて。
若い心の一途さで、バイブルのようにあがめたところがあったなって、感じたのです。

自分にあっているか考えもしないでそのまま取り入れてしまったと感じるところが、読んでいて随分多かったです。

ルールに縛られていた自分

真理子さんの価値観をそのまま“自分のルール”にしていたことに気づきました。

たとえば、

  • 刺繍や色半襟は使わず、白襟白足袋で清潔感を出す
  • きちんと作られたきものをきちんと着る

これはね。
私にあっているところもあったのですが。
ちょっとばかり厳格にやりすぎたかなと今は思っています。

白足袋はいいのです。
私もすごく好きだから、これからも通すと思うのですが。
半襟で遊ぶ楽しみを排除する必要はなかったのではと、思い始めています。

半襟にのめり込まなかったのは針仕事が得意ではないのもあったのですが、実は最近、ビーズ半襟が大好きで。
楽天市場のある呉服屋さんの福袋に入っていたもので、せっかくだから使ってみようと思って試してみたところ、すごく素敵だし便利なんですよね。





つやがあるので、もう若くない私の肌もすこし生き生きと見えるのです。
厚みがあるので、肩まわりが骨ばっている私の体型も自然にカバーしてくれます。

ひやっとする付け心地なので冬は使いませんが、初夏くらいから秋まで使っています。
ビーズなので布じゃないから、日焼け止めなんかの汚れも、拭くだけできれいに取れるのです。

なによりも、長襦袢にこれがついていると、心躍るというか、ときめくのです。
襟のおしゃれって楽しいなって思うようになりました。

白の塩瀬以外の半襟は、今のところこれだけなのですが。

『あきない世傳金と銀』で黒の天鵞絨の刺繍半襟が重要なシーンで出てきたのを読んでからは、半襟に対する興味がムクムクとわき上がってきています。


※このシーンについて書いた書評はこちら
『あきない世傳金と銀』|すべては極上の半襟を選んだことから始まった


自分の白半襟へのこだわりが、『着物の悦び』に由来するものだとは、今回再読するまで忘れていました。
気づいてちょっと、自分の真面目さに笑ってしまった。
そんなに林さんに操を立てる必要ないのにって。

コートの脱ぎ着に異常に緊張するようになった

それともうひとつ。
影響を受けたことといえば、コートの脱ぎ着です。

林さんがコートを着るときに失敗したシーンが強烈で。

とにかく一刻も早く着ようと私は焦った。そして洋服のコートを着るように、さっと背にまわそうとした。が、重みのある絹のコートははずみがついて、「ブーン」と見事に大きな円を描いたのである(143頁)


この箇所を読んで以来、私は人前でコートを脱ぎ着するのが異常に怖くなってしまいました。
ちょっと冷や汗かいてしまうくらい緊張してしまいます。

だから人目のあるところでは、脱ぎ着しないようにしています。
こっそり脱いで、たたんで持って。
着るときは誰もいない場所で落ち着いて羽織る。

そのため、畳み方はかなり練習しました。
上品に羽織るより、きれいに畳んで手に持つ方が私には入り易かったから。

着物のコートって、スナップの数や位置がものによって違ったり、紐の付き方に個性があったりするので、 着るときに結構手間取るのですよね。

そこでもたついてしまうと、 着慣れていないって見られてしまうんじゃないかとか余計なことを思ってしまって。
そう思われたからってなんだというんだろう?とも思うのですが、やっぱりそれは恥ずかしいような、悔しいような気がする…

コートは預けたり、受け取ったり、手に持ったりという、着付けとはまた違ったハードルがあるので、 そこをこの本で初心者の段階で知れたことはよかったのですが。
なんといっても着物って、着て動く回数=慣れが大事だから、 頭でっかちになってしまったという面ではマイナスだったかなと思います。

時代が変わったからこそ見えること

全体として、いま読んでもすごく楽しめたし、勉強になります。
ですが、もう時代が違うと感じる部分も正直あると思います。

たとえば、着物の入手経路は、当時と今とではかなり様相が異なります。

ここ数年のメルカリや中古市場の活況という要素が全く入っていないので、現在の着物事情とはどうしてもズレる部分があるのです。

リサイクル市場はすごく大きな要素なので、きちんとしたものをきちんとしたところから買ってきちんと着るという真理子さんが大事にしているルールではどうしても納まらないのが現状だと思います。

経済が冷え込んで昔のように高いものを買わなくなった、買えなくなったという側面はもちろんあるのだけど。
それだけでもなくて、“サステナブル”とか“アップサイクル”などという、当時は存在しなかった言葉に代表される時代の流れもあります。

どんどん新しいものを作って、どんどん購入するというスタイルが、必ずしも正解ではない今の時代にあって。

着物を好きになってすでに25年以上。
すごく入れ込んだり、ときどきは少し離れてみたりしながらここまできて、いまこの本を再読しての感慨なのですが。

自由であることの価値を、今すごく感じているのです。
自分も自由でいたいし、他の人も自由であってほしい。

真理子さんの着物のルールに従って、憧れて。
学んだことは多かったけれど、今は自分の好みを貫きたい。
自分の心地よさや楽しさを追求して、自由に着てみたい。

そんな思いを新たにしました。

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関連リンク

🍀本文にも何度か出てくる、林真理子さんお気に入りの「志ま亀」のきものと帯。
眺めているだけでも心が浮き立つような、あの独特の華やかさがあります。
気になる方のために、リンクを置いておきます。





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