22年前の訪問着を前に、売るか着るかで揺れた話

着物の整理と手放し方

ここ数日ずっと、桐の衣装箱に眠っている訪問着のことを考えていました。
22年前に誂えた、紺地に桜と月の刺繍が入った訪問着です。

結婚して間もない頃のこと。
いつか子どもが生まれたら、入園式や卒園式、入学式で着られると思って購入しました。

息子が成長してゆくなかで、行事で着ようと何度も思いました。
ですが、なかなか手のかかる子だったので着るものに心を配る余裕がなく、手軽な洋服で済ませてしまいました。
結局一度も袖を通すことなく、桜も月もたんすの暗闇のなかに閉ざされたまま。


「売ろうかな」と思い始めたきっかけ

冬の着物を確認しようと思ってタンスの整理をしたところ、この着物がでてきて、ふっとため息をついてしまいました。

濃紺ねぇ。
それに刺繍の色合いも若々しいような。

50代に入ったころから、似合う色が変化してきました。

それまでは紺色が私の鉄板カラーだったのですが、どうもしっくりこなくなり、代わりに黒がとても映えるようになったのです。

きものの似合い方は洋服ほど極端には流れず変化はゆるやかなのですが、やはり若い頃の感覚では着ることができなくなりました。

そして、この訪問着は濃紺。
今の自分が着こなせるのか、買ったときのように似合うのか、イメージしづらい。
でも、柄は上品で可愛らしく大変好ましい。

三越の展示会で購入した思い出もあり、店員さんとのやり取りは今も鮮明に記憶しています。

「卒業式に着たらちょうどいいのよね」
入卒では、はんなりした色の訪問着が最近の傾向みたいだけれど。
卒業式は別れの式典でもあるので、こういう暗い色が案外着やすいとも思われて。

年末年始のこの時期なら欲しいという方がいるかもしれない。
そんな気持ちが湧いてきて。
これが「売る」という選択肢を真剣に考え始めたきっかけでした。

着物買取のリアル|唐織の未使用品が1500円だった話

これまでに着物や帯を買取に出したことは何度かあります。
理由はものによっていろいろなのですが、それは今は置いておいて。

買取価格でいちばん高い値がついたのは、「唐織の袋帯」でした。
しかも未使用品。

「これはさすがに、そこそこの値段になるかな?」と少し期待して持っていったのです。
ついたお値段は 1500円。
これでも、私の買取経験の中では(単品では)“最高額”なのです。

もちろん、買取が悪いという話ではなくて。

この界隈の値付けは、「需要があるかどうか」が判断基準のようです。
売れるかどうかで値段が決まる。

ビジネスは全部そうなのかもしれないけれど。
こと着物に関しては違うものを求めてしまうワタクシです。
それが間違いの元なのかもしれません(涙)

私の帯は未使用で仕立ても良く柄も素敵だったけど、ブランド品ではなかったので高い評価をされなかったのだと思います。

「そんな値段でこの訪問着を手放すくらいなら、ほどいて巾着にしたほうがまだマシよ」と正直なところ思います。

これはちょっとした怒りでもあり、同時に「自分の審美眼を守りたい」という防衛でもありました。
着物の価値が「市場の都合」で決められてしまうことへの違和感もあります。

長く大切に持ってきた者としての、ささやかなプライド。
だから私は、買取に出す選択肢は早々に却下しました。

「知り合いに1万円」はさすがに無理

では、知り合いに譲るのはどうか。

こう考えたとき、娘さんが2人いる中学時代からの友人の顔が思い浮かびました。

「お嬢さんが着てくれないかしら」
でも、ここでまた別の問題が出てきます。

タダでというのはひっかかる。
そして、金額の多寡よりも、お金の話を直接しなければいけない“気まずさ”。

「1万円でどう?」なんてとても言えません。
安くしすぎてもモヤモヤするし、高く言うのはさらに気まずいし。

「友人に売る」なんてどだい無理な話なのです。
“人間関係”が壊れてもいいというなら話は別でしょうが。
大事な友人だからこそお金の話など、とてもできないと思いました。

メルカリという現実的な選択肢と、最後に残った「梱包の壁」

そこで浮上してきたのが、メルカリ。
私は過去にメルカリ物販を少しかじったことがあって、出品のノウハウはあります。

実際、3ヶ月ほど前にも単衣の着物を売りました。

こちらは薄手だったので、たたんで宅配袋で送りました。
特にクレームもなく無事に取引が完了。

地紋おこしの小紋だったのですが、大変美しいきもので自信をもってお取引ができましたし、お値段も中古であることを考慮すれば満足のいくものでした。

そして今回の訪問着。
季節的にも今は、卒業式・入学式の準備が本格化する時期。
訪問着を探している人がいるかもしれない、ちょうど良いタイミングです。

売りたい気持ちは揺らいでいない。
時期も悪くない。
メルカリの操作もわかる。

……それなのに、最後まで私の頭を悩ませたのは、たったひとつの障壁。

梱包をどうすべきか?

宅配袋はダメなの? という堂々巡り

単衣の時は宅配袋で送っても問題なかった。
でも、それは薄かったし小紋だったし。

で、今回は訪問着。
三越扱いのそこそこいい品。




「宅配袋じゃ、さすがに心配」
「シワがついたらクレームになるかも」
「たとう紙は? 台紙は? 防水は?」

考えれば考えるほど、「一体どこまでやったら“丁寧”って言えるの?」という迷路にはまっていきます。

頭の中には、仕立て屋さんから届いたときの、あの“ちょうどいいサイズのダンボール”が浮かびます。
でも現実は、そのダンボールが手元にない。

家にあるのは、Amazonやら楽天の小さいダンボールばかり。
それらをいかに「訪問着を送れる形」にするか。

頭のなかでシミュレーションしてみます。

まず本だたみ → それを3つに折る。

動かないようにぴっちりと、でもきつ過ぎないように袋に入れる→凹凸はプチプチでならす→まわりを新品たとう紙で巻く→そのうえで宅配袋に入れる

自分なりに“ほぼ完璧な梱包プラン”まで組み立てました。

しかし、ここまで考えてもまだ心配がつきない。

「やるならちゃんと完璧にやりたい。着物が好きだから」
「大切にしてくれる人にいい状態で届けたい」

強いこだわりが、最後の一歩を踏み出すことをなかなか許してくれないのです。


ふと出てきた、本音の一言

そんなふうに、「売る」「誰に売る?」「どう梱包するか」をぐるぐる考えて、言語化して、整理して……を繰り返していたら。
ふいに、こんな言葉が口からこぼれました。
いっそ自分で着てしまうとか…
あれだけ売る方向で考えていたのに、気づけば“着たい”という本音が、静かに顔を出していたのです。

そこで、ひとつの提案が自分の中に浮かびました。
お正月に着てみたらどうかな?

お正月に、一度ちゃんと袖を通してみるという選択

お正月なら訪問着を着ていても違和感があまりないのではないかしら。

この着物は分類としてはいちおう訪問着なんだけど、フォーマル感はすごく薄くて、むしろ何も言わなければ付け下げか小紋のように見えるし。
色もおとなしい濃紺だし。
名古屋帯で控え目なコーディネートにすれば、ごく普通の街着にも見えるくらい。

そうして着てみることで、私の気持ちに変化があるかもしれない。

今の自分に本当に似合わないのか?
着ていて気持ちが上がるか?

着ることでこの着物を再評価するのです。

どうするかはそれから考えてもいいのではないかしら。
急ぐ理由など何もないのです。

まとめ

今回、訪問着を「売るかどうか」でぐるぐる悩んでいた気持ちを、ひとつひとつ丁寧にたどってみたら、最後に残ったのは意外にも「一度ちゃんと着てみたい」という気持ちでした。

お正月に袖を通してみて、今の自分にどう映るのか、どんな気持ちになるのか。
まずはそれを確かめてみようと思います。

そして実行に移すにあたり、ひとつだけ心に決めたことがあります。

それは。

これを着るために新しいものは買わない、ということ。
手持ちの帯、帯揚げ、帯締め、小物の中でコーディネートを組むのです。

その結果、何を感じるか。
確かめてみようと思います。

次回は、手持ちのアイテムだけで、この訪問着をどうコーディネートするかを考えてみたいと思います。

おまけ

✨濃紺の訪問着は、ちょっとしたホコリでもすぐに目立ってしまいます。
そんなときに助かるのが着物ブラシ。
私は仙台屋さんで購入したものを使っていて、しまう前に軽く払うようにしています。


✨今回の訪問着は「手持ちの小物だけでコーディネートする」と決めていますが、タンスを整理しているうちに、「収納ケースもそろそろ見直したいな」と感じる場面がありました。
以前から気になっているのがこちらの『きものキーパー』です。3枚セットでお買い得ですが、元旦からのセールになっていますのでご注意ください。
楽天ランキング1位受賞。
着物を湿気や虫から守ってくれます。
もし同じように着物の整理を考えている方には参考になるかもしれないのでリンクを置いておきますね。


✨たとう紙は出し入れしているうちに自然と傷んでくるもの。
着用しなくても年数が経つと紙に湿気を含んでしなしなになってしまいますね。
まとめて買って古くなったものを一気に入れ替えるのも気分の良いものです。
着物用と帯用を好きに組み合わせられる10枚セット。美濃和紙使用で高級感ありです。


✨よく考えられたデザインに関心してしまうきものハンガーです。
本たたみのまま吊るすことができます。
すこし値のはるところが残念ではありますが、使ってみると高価なのも納得のお品です。
私はウールのきものと洗える着物はこのハンガーにさげて、洋服と一緒にクローゼットに収納しています。


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