【12,000円の紬と歩んだ25年】八掛の失敗と、コーディネートの変遷

心・生き方

それは平成12年(2000年)のことでした。

デパートに入っている呉服屋さんの新春セール。
「平成12年だから12,000円均一!」と書かれたワゴンのなかにその紬はありました。

越後花織と名前のついた織物。
信じられないほどの破格値でした。

安すぎて人にお話しするのは少し恥ずかしい、とずっと思っていたのです。
でも、25年以上が経った今、私のクローゼットの中で一番のお気に入りとして育ってくれたこの紬には、お金では買えない私と着物の物語がぎゅっと詰まっています。

今日は、この12,000円の紬が私に教えてくれた、リアルなコーディネートの変遷とお仕立ての裏話(というか失敗談)を書いてみたいと思います。

裏は自分で調達して予算を抑えた最初のお仕立て

出会った瞬間にかあっと心が弾んだその紬。
「12,000円できものを買えるなんて!」と思ったのだけど。

呉服屋の女将さんに恐る恐るお仕立て代をうかがったら、ちょうど2万円とのこと。

でも、裏物まですべてをおまかせすると、胴裏と八掛でさらに2万円は上乗せになりそう。
「それはなんとしても避けたい」と考えた私は、自分で調達することにしました。

ネットショップで購入した胴裏は当時6,000円くらいだっと記憶しています。
八掛はデパートのワゴンに入っていたものの中から、表地に近い色を選びました。
両方でちょうと1万円くらい。

紬の着物には紬の八掛をつけると知っていましたが、ちょうど良いものが見つからなかったし、染めの着物用の精華パレス生地を裾さばきがよいからと好んで紬につける人がいるということも聞いたことがあったのです。

持ち込んだ際、呉服屋の女将さんは、やはり、紬用の八掛ではないことに最初は少し難色を示されました。

でもすぐに、「紬八掛は切れやすいし、こちらでもダメということはありませんよ」と言ってくださって。
きれいなピンクで私も好きな色だったので、ホッとしたのを覚えています。

自分の予算を守り、自分で選んだお気に入りを形にしたい。
今の私からみると若くて一生懸命な自分がなんだかいじらしいのですが、そんなわがままを通したところから、この紬との長いお付き合いがスタートしたのです。

12,000円紬のコーディネート変遷記

この紬を仕立てて以降の私の人生に、この紬はずっと寄り添ってくれました。
3度の転勤と子育ての間も、一度もそばから離れることなく。

時々の暮らしや年齢に合わせて、帯の組み合わせも変化してきました。
ここで、その25年の歴史を振り返ってみたいと思います。

【第1期】作ってすぐの瑞々しい(⁈)ファーストコーデ

誂えてすぐにあわせるようになったのが、同じ呉服屋さんでお勧めされた博多の八寸帯です。

落ち着いた地色の紬に、明るいクリーム・ベージュ系の帯が優しく映え、織り込まれた伝統的でありながらどこかエキゾチックな柄行きが、若々しい雰囲気を引き立ててくれました。

呉服屋さんのお勧めだけあって、安心感がある組み合わせでした。

この写真は今日撮影したのでさすがに帯が古びていますが、購入したばかりの頃は、帯の白い部分はもっと白く清々しく、着物の八掛もきれいなピンクだったので、もっと瑞々しい雰囲気だったのですよ(笑)

【第2期】32歳、結婚。祝福の思い出と共に

結婚してすぐの頃、夫がプレゼントしてくれた博多帯とのコーディネートです。

当時は「これから先、ずっと長く使えるものを」という真剣な気持ちで、白地の落ち着いた格子紋様を選びました。

今振り返ると「随分地味なものを選んだものね」とも思いますが、辛子色や赤、深い緑といった、紬の絣(かすり)の色とリンクする色がちりばめられた、今見てもちゃんとしたコーデと思います。

ただ、呉服屋さんの女将さんが勧めてくれた先の帯に比べると、やや印象が固いというか、よく言えば堅実、悪く言えば頑固に見えます。

【第3期】子育て時代。ひと冬に一度、心を整える半幅帯

子どもがまだ小さく、寝不足でいつもいっぱいいっぱいだった子育て時代。

ちゃんとした着物を自分の楽しみのために着て出かける機会なんて、全くありませんでした。

それでも「ひと冬に一度だけでもいいから、どうしても着物が着たい」と、すがるような思いの時に、パッと締められる橙色の博多半幅帯を貝の口にして、ゆるく家事をしたことも何度かありました。

慌ただしい日々に、この着物に袖を通す時間だけは、心が豊かになれるような気がして。

自分で稼いだつつましい給料の中から買った、これまたつつましい紬に、静かであってほしい人生を映して見ていた気がします。

忘れられない大切な時代。

【第4期】40代から現在。大人の遊び心を目指して

少し子育てが落ち着いてからは、自由に新しい組み合わせを楽しんでいます。

最近、メルカリで「あまりに安いから」という理由だけで衝動買いした、ぜんまい紬と思しき袋帯(画像中央)。

カジュアルな紬に袋帯を合わせるなんて最初は考えてもみなかったのですが、きりばめの模様のごく薄いピンクが偶然にも調和して、落ち着きがありつつ洒落味も感じさせてくれるコーデになりました。

ネットショップのシンエイさんで見つけた、真綿の八寸名古屋帯(画像1枚目)もお気に入りです。温かみのある白地に、グレーや青、紫のグラデーションが美しく映え、今の私の肌色や雰囲気に驚くほどしっくりと馴染んでくれています。

3枚目はちょっとキラッとした波のような模様にざっくりとした素材感が魅力のこれも洒落袋帯。
模様がないので落ち着きがあり、その分すこし装いの格が上がる気がします。

[楽天市場で探す] 真綿紬の帯一覧

【楽天市場で探す】紬袋帯の一覧

10年目の転機。八掛の交換と「顔映りの失敗」から得た気づき

人生のステージにあわせたコーデで、私の相棒であり続けてくれたこの紬ですが、実は仕立てから10年ほど経過したころに、一度お直し(メンテナンス)をしています。

八掛が擦り切れてしまい、さらに全体に「袋が入る(表地と裏地のバランスが崩れてたるむ現象)」ようになって着づらくなってしまったのです。

八掛の擦り切れは着用回数が多かったせいですが、袋が入ったのはおそらく精華パレスの八掛と紬の表地との相性が関係していると思われます。

伸縮率が大きく違う2つの生地を表裏にしているので、年数が経つと狂いが生じるのは仕方のないこと。
織り込み済みではあったし、ちょうど八掛も切れたので、八掛の取り替えをすることにしました。八掛を替えれば、袋が入った状態も治るでしょうという店員さんのアドバイスもありました。
選んだ八掛は、渋みのある「辛子色」。

この色は紬の模様のなかに使われているからよく馴染むだろうと思ったし、雰囲気を変えたいという気持ちもありました。

これでまた新鮮な気持ちで着られるとワクワクしていたのですが……
ここで想像もしなかった事態が起きます。

八掛を辛子色に変えた途端、それまでしっくりきていた着物の色が、なぜか私の「肌色」に合わなくなってしまったのです。

八掛が表から見える面積はごくわずかですが、その色ひとつ変えただけで、顔映りや全体の雰囲気がここまでガラリと変わってしまうとは夢にも思いませんでした。
いきいきとピンクがかった葡萄色だったものが、なんだかちょっと黒っぽくくすみ、沈んだ色合いに見えるようになったのです。

失敗を越えていまも現役の“タフな相棒”。そして未来へ

八掛が辛子色になったことで、「以前より顔映りが悪くなったな……」と悩んだりもしました。

外から見える八掛の色ひとつで、全体の印象がこれほど左右されるのかと、着物の奥深さを痛感した出来事です。

でも、そこで諦めてタンスに眠らせてしまうのはもったいない。
小物を上手にコーディネートすることで、この失敗も乗り越えようと思って今に至っています。

辛子色の八掛と上手に折り合いをつけようと心がけながら、この紬は今もしっかりと現役の1軍として、タンスのなかの一番取り出しやすい場所を占めています。

着物の価値ってお値段ではないのです。
どのようにして、自分の人生に寄り添ってくれたかなのです、私にとって。

そしてまず何よりも、この紬は本当に暖かいのです。
北海道の厳しい真冬の寒さにも、「今日は寒いからこの紬にしよう」と思える、頼もしい相棒です。

仕立ててから25年以上経ったというのに、12,000円だったこの着物の表地は「びくともしない」ほど丈夫なまま。
本当にタフで、長く寄り添ってくれています。

現在の“辛子色の時代”を乗り越えたその先には、またふたたび「ピンクの八掛」を合わせようと心づもりしています。
若々しいピンクではなく、桜ねずのようなやさしいピンクにしたいなと。

年齢を重ねた私が、そのピンクをどうやって手持ちの帯たちと調和させていくのか。
それを想像するだけで、まだまだこの着物には先があるのだと、未来が楽しみで仕方がありません。

洋服ならば、四半世紀以上ずっとそのまま着続けるなんてことは、全く無理とは言わないまでも、ほとんどの場合ないと思います。

でも着物ならば。
手を入れつつ、このように育てていくことができる。
人生のときどきで、着ながら手を入れながら、ずっと共に歩むことができる。

私がずっと着物を好きでいられるのは、同じ時間を共に生き、寄り添ってくれる存在だからなのだと思います。

編集後記

今回の紬の話のように、私にとって着物は「消費するお買い物」ではなく、自分の人生を共に歩んでくれる存在です。
この着物を作ったときの記憶はこちらの書評記事でも綴っています。
あわせて読んでいただけたら嬉しいです。

[関連記事] 幸田文『きもの』①|“こしらえる”という言葉に感じたノスタルジー

また、私の着物への情熱や、ときめくお買い物の高揚感の原点となった、大好きな林真理子さんの著書の感想はこちらです。

関連リンク

今回の記事でご紹介したように、お仕立てやリフォームを工夫する時間は、本当に贅沢で楽しいものです。

呉服屋さんや仕立て屋さんに裏物をおまかせするのは安心ですが、ネットでも良質な正絹の八掛や小物が手軽に手に入る時代です。

あなたもタンスに眠っている着物の八掛の色を変えて、新しい命を吹き込んでみませんか?


🍀【楽天市場・きれいや】洗い張り
こちらは表地のみの洗い張りメニューです。
私もよく利用しているショップなのですが、いつも安心しておまかせしています。
このお値段でプロの手におまかせできるのは本当に心強いですよ。


🍀【楽天市場・和衣庵】八掛取り替え
「八掛を変えてみたいけれど、どこに頼めばいいか分からない」という方へ。
こちらのショップは、私が以前、単衣紬の仕立てをお願いしたことのあるお店です。
実際に利用してみて、お仕立てのクオリティは満足できるものでした。
裏地の色が好みではなくて着られないお着物がある方は、八掛替えを検討してみてはいかがでしょうか?


🍀【楽天市場・おてんば】正絹紬八掛
正絹の紬八掛です。無地でぼかしは入っていないタイプです。
こちらのショップは希望の色に染めることもできるとのことです。
自分の着物にぴったり合う「こだわりの絶妙な色」をじっくり探したいときや、私のように『次はこんな色の八掛にしよう』と未来の構想を膨らませるときにも、とても心強い選択肢ですね。


🍀【楽天市場・京都きもの市場】紬用正絹駒八掛(無地)
こちらも紬用の八掛です。 最近の価格高騰には少し驚いてしまいますが、こちらはやや手頃な価格で手に入ります。
もしお手持ちの着物に合う色が見つかれば、お買いお得ですね。
このほかにも何色か在庫があるようです。


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

【紬用】 正絹駒八掛地(無地) No.956 「煤色」
価格:8,800円(税込、送料無料) (2026/7/12時点)


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

【紬用】 正絹駒八掛地(無地) No.925 「黒鳶色」
価格:8,800円(税込、送料無料) (2026/7/12時点)


🍀伝統の技にときめく。私の「越後花織」から広がる花織の世界

ここまで仕立てやお直しの話ばかりになってしまったので、最後にちょっと目の保養を(笑)

この記事の私の着物は「越後花織」という名前がついた織物です。
格子の中に小さく浮き出る愛らしい模様を見つめていると、やっぱり織物っていいな、着物って素晴らしいなと時間を忘れてうっとりしてしまいます。

「花織(はなおり)」といえば、やはり本場である沖縄の素晴らしい伝統工芸品を思い浮かべる方も多いでしょう。

首里花織や読谷山花織、与那国花織……。南国の風土が育んだ本物の花織の帯や着物は、独特の立体感と息をのむような色彩の美しさがあり、着物好きなら誰もが一度は憧れるものですね。

【楽天市場】着物ファンの憧れ・至高の伝統工芸「沖縄の本場花織」を覗いてみる

🍀応援していただけると励みになります。

にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ
にほんブログ村 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビュー
にほんブログ村

コメント

タイトルとURLをコピーしました