書評:高田郁『あきない世傳金と銀 第1巻・源流篇』|すべては極上の半襟を選んだことから始まった

おすすめ本の紹介

アメブロで交流のある読者さんが、 NHKドラマ『あきない世傳 金と銀』について書いていた。
原作とドラマでの着物の違い、着付け方の違いなど── その細やかな視点がとても面白くて、 気がつけば私もドラマを見はじめていた。

たしか第4話くらいからドラマを見始めたのだけど、 それでも十分に惹きつけられた。

けれど、どうしても最初からこの物語について知りたくなって、第1巻を手に取ったのがすべての始まり。

そこからはもう読むのをやめられなかった。

気づけば全巻を読み切っていた。

羽二重、江戸小紋、染めの浴衣、商いの心、人の情── そのすべてが静かに胸に残り続けている。

著者:高田 郁(たかだ・かおる)について

1959年、兵庫県宝塚市生まれ。
中央大学法学部卒。
漫画原作者として活動したのち、四十代で時代小説の世界へ転身した異色の経歴を持つ。

山本周五郎作品に深く影響を受け、 「人の情」「小さな光」「生きる手触り」を丁寧に描く作風で知られる。 2008年『出世花』で小説家としての活動を本格的に開始し、 以降、江戸の町の空気や商いの哲学を丹念に描く作品を発表し続けている。

代表作には『銀二貫』『ふるさと銀河線 軌道春秋』などがあり、 現代の時代小説を牽引する作家の一人として高く評価されている。

『あきない世傳 金と銀』は、大坂天満の呉服商を舞台に、 主人公・幸が“買うての幸い、売っての幸せ”を胸に、 商いの心と人の情を積み重ねていく全13巻と特別巻(上下巻)の物語。

本の概要

主人公の幸(さち)は摂津国津門村に学者の子として生を受ける。

父から「商は詐(いつわり)なり」と教えられて育ったが、父と兄を相次いで亡くす不幸を経て、9歳で大阪天満にある呉服商「五鈴屋」に奉公へ出されることになる。

慣れない商家で女衆と働く中で、五鈴屋の要石、番頭・治兵衛に才覚を見出されて、徐々に商いに心を惹かれていく。

商いは詐(いつわり)なのか?
それとも、人が生涯を賭けるに足る道なのか?

奉公人としてスタートした幸の人生が大きく変わろうとする直前までを描く第1巻は、まさに幸の人としての、商人としての源流を描いている。

第1巻の見どころ 幸が選んだ黒い半襟

五鈴屋に奉公にきた幸だったが、店の手違いで、同じように奉公を希望する少女が、幸を含めて4人もやってきてしまう。

4人の少女たちは、主の富久と番頭の治兵衛から、ご縁の有った証としてお土産を持たせてあげようといわれ、4種類の半襟を見せられる。

それらには値段と思われる数字がついていたのだが、幸が選び出した半襟は一番数字が小さいもの(つまり安価と想像されるもの)で、黒い地味な半襟だった。

番頭がそれを選んだ理由を聞くと幸は次のように答える。

(半襟が)髪油を襦袢や着物につけないためのものなら、黒の方が汚れが目立たないです。それに、ほかのと違って、これは肌に柔らかくて温かかった。(中略)母に使ってもらおうと思います。

派手なものなら母は身に着けないのではと考えた幸なのだ。

実はこの半襟は、このなかでとびぬけて高価なもので、他のものは安物だった。

どの子を残すか、半襟を選ばせて人となりを試そうとした富久と治兵衛。

ほかの3人はその安い半襟を携えて郷里に帰っていくが、残った幸は半襟を返せといわれ、おとなしく返したことで、無事にお目に適って採用となる。

幸の目先の利益にとらわれず、物の本質を見極める目の確かさと賢さがわかるシーン。
同時に、五鈴屋の人々の商人としてのしたたかさも感じられる。

無事採用されたが、こういうやり方は人心をもてあそぶものではないかと気が重くなる幸なのである。

第1巻を通して感じることは、番頭・治兵衛どんのあたたかさと賢明さ。

彼は五鈴屋に骨身を惜しまず仕える一方で、女だてらに読み書きが好き、知恵が欲しいと願う幸を、ありのままに受けとめ、その才能を見抜き、当時の常識ではありえない配慮をしながら、幸が知識を身につけていけるよう手だてを考えてくれるのだ。

治兵衛どんが主人公にとって生涯の恩人になる予感と、まだ14歳の少女である幸の今後の飛躍への期待を抱かせる内容となっている。

こんな人におすすめ

おすすめ① 着物が好きな方へ 着物がどのように商われてきたのかだけでなく、 織元や産地、問屋と小売りの関係、小紋染めの工程など── 現代の染め織りの知識が、物語を追ううちに自然と身についていきます。

おすすめ② 経営や商いに興味のある方へ “買うての幸せ、売っての幸い”を身上に、 欲得づくではない誠実な商いを貫く五鈴屋の姿勢は、 現代の経営にも静かな示唆を与えてくれます。

おすすめ③ 時代小説が好きな方へ 江戸時代の町人文化や商家の習わし、 大阪と江戸の気風の違い、 商人と武士との関係性など── 当時の暮らしの息づかいが、物語の中で自然に立ち上がってきます。

おすすめ④ 成長物語が好きな方へ 読み書きを好み、知恵を求め、 自分の力で未来を切り開こうとする幸の姿は、 静かに心を励ましてくれます。 努力が少しずつ実を結んでいく物語が好きな方に向いています。

おすすめ⑤ 人情物が好きな方へ 五鈴屋の人々の温かさ、 治兵衛どんの深い思いやり、 幸のまっすぐな心── 人と人とのつながりが丁寧に描かれ、 読後にやわらかな余韻が残ります。

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