総絞りのきもの|人に歴史あり。そして着物にも…

着物と心のこと

子育ての不安と孤独で押しつぶされそうだった頃、思いがけず出会った一枚の総絞り。
その出会いは、荒んだ心に大きな光を灯してくれました。
今回は、京都絞栄会の展示会で総絞りを購入した体験と、その裏にあった当時の心境を綴ります。

子育ての不安と孤独のなかで出会った「京都絞栄会」の展示会

息子がまだ3歳くらいの頃のこと。

発達に不安があって、ストレスで押しつぶされそうになっていました。

その頃は夫の転勤に伴われて鄙びたまちに住んでいて。
子育て環境も良くなかった。

辛くてしばらく実家に帰っていたときに、子どもを母に預けて外出した先で、たまたま出会ってしまった京都絞栄会の展示会。

フラフラと入って勧められるままに羽織らせてもらい、そのまま購入してしまったのです。

絞り職人さんとの出会いと総絞り購入まで

清水の舞台から飛び降りるとはまさにこのこと(笑)

絞りの職人さんが対応してくださって。

手間がかかりすぎて後継者がいないということを話しておられたのが印象的でした。

貴重な手仕事の成果である反物を実際に見ることができてうれしかったけど、なんといっても総絞りといえば思い浮かぶのは高額であること。

正直、見るだけで買うつもりはなかったのですが、スムーズな流れでお値段の話がでて。
意外ことに買えないことはないお値段だったのです。

本当かしらと信じられなくくらいお買い得で。
呉服屋さんの店先で色無地を買うくらいのお値段でした。

それでも決心がつかない私。

何とかして断ろうと思って、羽織らせていただいたのが紫だったので

お色がちょっと……
紫は大好きですが、何枚も持っているので。

そう言って断ろうとしたところ、お好きなお色にお染しますよ、何色にしましょうか?と聞かれて、言葉を失ってしまいました。

そこで観念しました(笑)

無難な色にしようと考え、グレーを指定して帰宅しました。

手付金も何もなく、配達先の私の住所と仕立て寸法をお伝えして。

手付金なしで届いた総絞り――京都の呉服文化に驚く

これで本当に注文したことになるの?
今日のことは現実だったの?

私の街(北海道)で、京都の絞り職人さんから直接絞りを購入する?
しかも気に入った色に染めるとか?

信じられなくて、夢の中を歩いてきたような心地がしました。

そして、2か月後。
普通の顔をしてに自宅に届いたのです。

うすグレーに染められ仕立て上がった総絞りが!

これって普通のことなの?

それともすごくワタクシ信用されたとか?

言葉はわるいけれどちょっと呆れましたね。

お支払いは商品と一緒に届いた請求書で振り込みましたけど。
この時まで一銭も払っていなかったのですよ?

おおらかというかなんというか。
京都ってすごいところだわ。

袖を通してみてわかった総絞りの迫力とコーデの難しさ

着用してみました。

絞りはもっと優しい雰囲気がでるのかと思いきや、やたらめったらパワーがあって光沢もすごい。

裏打ちしてあり厚みがあるので、帯にもボリュームが必要な気がして、輪奈織の袋帯をあわせてみました。

帯揚げは手近にあったピンクを使ったのだけど、すっごくダサいですね💦

次に着るときは、もっとちゃんとコーディネートを考えてから着付けようと思います。

✨上のコーデではピンクの帯揚げが浮いてしまったので、次回は紫系のグラデーション帯揚げを合わせられたらと思います。
たとえば帯専門おびやさんの「紫菊」のような淡い紫〜白の帯揚げなら、グレーの総絞りにも自然に馴染み、顔まわりを優しく引き立ててくれそうです。


グレーを選んだ後悔と、それでも気づいた価値

着てみた正直な感想としては、グレーの着物、似合わなかった(´;ω;`)
紫にしておけばよかった😿

話の流れから、「やっぱり紫でお願いします」とは言えなかったけど。

職人さんはきっとわかっていらしたんだと思います。

私には紫が似合うと。

「グレーで」とお伝えしたときちょっと躊躇するようなあいまいな返事をなさったのよね。

その時に、どう思われますか?紫のほうが似合うかしらね?などと、さらっと言えていれば……

購入を渋ったばかりに結局似合わない色を買うことになった私、本当に愚か。

とはいえ、グレーはやはり重宝だとも思います。

現代の街で着物を着用しようとおもったら、モノトーンはハードルが低くて良いところもたくさんあります。

ただでさえ絞りは人目を引くから小心者の私にはこれが正解かもしれません。

この上に墨黒の羽織を着たらかなり落ち着いた気持ちで歩けるのではないかしら。

総絞りは「必死で生きた証」――あの頃の自分を肯定したい

この絞りを買った頃の私ってホントに病んでいたと思います。
こんな大きい買い物でもしないと心を保てなかったのです。

難しい子育てがハードで辛くて。

世界にたった一人で取り残されたように孤独だった。

将来がお先真っ暗に思えて、明るい未来を描けなかった。

何でもいいからときめきが欲しかったのです。

荒んだ心にはちょっとした灯りでは済まなくて。
盛大な打ち上げ花火みたいな光が必要だったのです。

実家の母には見せられないわ、この着物は。
贅沢だって怒るに決まっている(笑)

だけどあの頃の私には必要な贅沢だったって、今は自分をかばってやりたい気持ち。

私は十分に頑張ってきたじゃない?
どうにかして生きたいと必死だったんだよ。
それくらい追い詰められていた……

今は何とか暮らしているのだからそれでいいじゃない。

この着物はずっとずっと好きでいたい。

必死で生きてきた証。
私の歴史だから。

京都絞り工芸館のご紹介

ここで京都絞り工芸館のサイトをご紹介します。
「京都絞栄会」のメンバーが制作し、コレクションした作品を展示しているそうです。
アクセスもよさそうですので、京都観光する機会があったら訪れてみたい場所です。

絞り染め | 日本 | 京都絞り工芸館 | Kyoto Shibori Museum

この絞りの着物を購入したときにいただいたチラシ。
今も大切に保管しています。

おまけ:絞りいろいろ

✨絞りの技術が活かされた帯は、見た目の美しさだけでなく、職人の手仕事の温もりを感じられるアイテムです。

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✨絞りの魅力は着物だけではありません。帯揚げにも、職人の技が光る逸品があります。
たとえばこちらは、衿秀の絞り帯揚げ。しだれ桜の模様が浮かぶ美しい一枚で、絞りならではの立体感と優雅さが際立ちます。
高額ではありますが、コーデの主役にもなれる帯揚げです。


✨最後に、絞りの美しさを堪能できる振袖もひとつ置いておきますね。
私自身はもうお振袖を着る機会はないですけど(笑)眺めているだけで心がふわっと華やぐ一枚です。


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