押し入れの奥で眠っていた、ピンクの小紋のこと

着物と心のこと

押し入れの奥に、待ち針が刺さったままのピンクの小紋があります。

前回の記事で「単衣の小紋が秋色の一枚しかない」と書いたとき、 胸の奥にざらっとした違和感を感じました。

一瞬立ち止まり、その違和感の正体をたどると、 「そうだ、縫いかけの小紋があった」と思い出したのです。

和室の押し入れの奥でひっそりと眠っている小紋を思いながら、 この着物の“身の振り方”を考えていくことにしました。

和裁教室をやめることになったきっかけ

その小紋は、和裁教室で縫っていたもの。
たしか、教室に通い始めてから3年ほど経ったころに縫い始めたものだと思います。

和裁教室をやめたのはコロナが原因でした。

パンデミック初期の大混乱が少し落ち着いて、ステイホームが解かれ始めた時期のある日、 夫が職場で濃厚接触者となり、三日間の在宅勤務を命じられました。

こうなると、私も息子もいつも通りの生活というわけにはいきません。
息子の学校に事情を話して休ませて。

私も和裁教室をどうするか、考えなければいけませんでした。
お教室は和裁士を育てるような本格的なものではなく、カルチャーセンターみたいな感じ。

私が一番若いくらい年齢層が高く、 先生をはじめ他のみなさんに万が一でもコロナをうつすことがあったら大変。

「皆さんにうつしては申し訳ないので」と教室を休んだら、 その瞬間、ふっと和裁への気持ちが切れてしまったのです。

でも、本音を言えば、ほっとした気持ちもありました。
というのも、その少し前から、気持ちは静かに離れつつあったからです。

嫌いなことに時間を使うことへの違和感

和裁を続けていた理由は単純でした。
仕立て代が浮くかもしれない、という期待です。

けれど現実は、月謝5000円で年間6万円。
厳密にはこれにバス代も加わります。

一年かけて浴衣を一枚、次の一年で単衣紬を一枚縫いました。
かかった金額だけ見れば、プロにお仕立てを頼んだ方が安いのです。

もちろん、時間をかけた分だけ知識と技術は身に付きますし、 それが習い事で一番大事なことなのは重々承知しています。

けれど──
そもそも私は縫い物が好きじゃないのだと、 その頃、身に沁みて感じ始めていました。

二時間の授業では、例えば身頃のしるし付けなどは途中で時間切れ。
家に持ち帰っても、変に動かしたら分からなくなりそうで下手にさわれない。
その結果、なかなか進まない。

「ここは家でできますね」と言われて持ち帰ると、 縫い物が好きではないから心に重くのしかかり、 ああ、編み物がしたい、とばかり思う。

そうこうしているうちに一週間があっという間に過ぎて、教室の前日にいやいや縫い始めるという体たらく。

「どうして私は、嫌いな縫い物に時間を使って、 大好きな編み物を我慢しているんだろう」

残りの人生を考えることが増えていた時期でもあり、 嫌いなことに時間を費やすのが、すごくもったいなく思えていたのです。

染めの小紋に挑んだものの

浴衣、単衣と縫い進めて、 「染めの小紋を縫わせてください」とお願いして始めた一枚。

先生は少し迷っておられましたが、すぐにOKを出してくれました。

実は私、結婚してすぐのころ、 もっと本格的な和裁教室に4カ月ほど通ったことがあり、 その時は浴衣3枚と単衣紬1枚を縫っていました。
全くの初心者ではなかったので、小紋を許してもらえたのだと思います。

私の中でも、 浴衣はもう要らない、この小紋の反物を形にしたい、 という気持ちがすごく強かった。
染めの着物を縫ってみたいという野望もありました。

けれど縫い始めてみると、 染め生地はテロテロと動きやすく、すごく縫いづらい。

それでも頑張って、あとは衿付けというところまできたのに──
最初に書いたコロナの濃厚接触騒動。

お休みしたら、気持ちが戻りませんでした。

和裁から解放され、編み物へ戻った日々

「これで和裁から解放された」 そう思ったら、胸が軽くなりました。

縫いかけどうしよう、なんて考えられないくらいに編み物に没頭して。
楽しかった!!

ヴォーグの棒針編み通信講座に申し込み、 自己流から初めて本格的に学ぶという経験もできました。

その後はかぎ針編みのマイブームが押し寄せ、 夢中になって編みました。
作った作品をメルカリで売ったりもしました。

毛糸の山と編み物道具がどんどん増えていくなかで、 ウコンの風呂敷に包まれ、盛大に待ち針が打たれたままの優しいピンクの小紋は、押し入れの奥で静かに時を止めていたのです。

何年ぶりかで向き合う小紋

あれから何年経ったのか。
5年くらい?
もしかしてそれ以上??

当時でも「可愛すぎるかな」と迷った、うすいピンク。
大人しい色だから今でも着られないというのでもないけれど、 縫いあげたとして、本当に袖を通すだろうか。

でも、どう考えても洋服にリフォームするにはもったいない……

その決め切れない気持ちのまま、久しぶりに包みを開いてみようと、押し入れから出してみたのですが。
何やらイロイロと記憶と違うような?

続きは後日に。

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