青木奈緒著『きものめぐり 誰が袖わが袖』書評|きものの“今”と“これから”を静かに見つめる

書評

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著者の青木奈緒さんは、幸田文さんのお孫さん。
幸田露伴から数えて、親子4代にわたる文筆家です。

お写真を拝見すると、きものと深く結びついた作家として有名な幸田文さんの面影がどこか感じられ、きもの好きとしては羨ましい気持ちがふっと湧いてしまうのですが、その嫉妬混じりの羨望は打ちやりまして(脱線しそうなので)、心を静めて読んで参ります。


『きものめぐり 誰が袖わが袖』はどんな本?

青木奈緒さんが、 日本各地の染め人・織り人、産地の現場、最新技術までを訪ね歩き、 きものの「今」と「これから」をひもとく紀行エッセイです。

章ごとに独立していて、どこから読んでも楽しめる構成です。

本書には、きものの世界を立体的に見せてくれる章が並びます。

染めの現場を訪ねる章
濡れ描き友禅や江戸小紋など、伝統的な染めの技法と、職人の流儀が丁寧に描かれています。

織りの産地をめぐる章
上田紬、伊勢木綿、近江上布などの産地を訪ね、それぞれの個性や織りの工程の奥深さを記しています。

流通システムを考える章
手織物流通士のもとを訪れ、問屋の役割や「商品芸術としての着物を作り続けること、流通させること」について考察しています。

デジタル捺染の章
最新技術がきものにどう取り入れられているかを取材した章。
※今回の記事では、この章を中心に紹介しています。

きものの技法や色を学ぶ章
京鹿の子絞りの緻密な技法にふれる、沖縄・多良間島の「たらま紅紬」創作プロジェクトを取材するなど、技術の粋と新しい色を求める人々の情熱を追っています。

伝統から最新技術まで、 きものの世界を多面的に見せてくれる一冊です。

私がまず読んだのは「デジタル捺染」の章

書き出しがとても印象的でした。

きものを着る人の多くが漠然と知りながら、積極的に話そうとしないのが、インクジェットプリンターでつくられたデジタル捺染のきものではないだろうか。

まさにその通り。

私自身、 「もしかしてこのきものはデジタル捺染?」 と思ったことはあるのに、あまり深く考えないようにしていました。

知らず知らずのうちに、 “手仕事こそ至高”という呪縛があったのだと気づかされます。

デジタル捺染を取材したのは「居内商店」さん

著者が訪ねたのは、 大阪・船場に事務所を構える「居内商店(ゴフクヤサン・ドットコム)」。

染めは新潟県十日町で行われているそうです。

インクジェットプリンターは家庭用プリンターとさほど変わらない見た目で、 広幅の布がプリントできるサイズ。

プリントヘッドが左右に往復し、 見る間に模様が次々と描き出されていく様子は圧巻だったそう。

取材のときは、白黒ハチワレ猫柄の訪問着がプリントされていたそうです。

🍀居内商店さんのセオα着物(商品ページより引用)

デジタル捺染の長所

居内商店さんのお話をまとめると、 デジタル捺染にはこんな魅力があります。

  • 色彩の豊かさ(16万色) グラデーションも写真も自在。 大胆な絵羽柄も可能。
  • 製版が不要 納期が短縮できる。
  • 一枚からプリント可能 色違い・地色変更などの個別対応ができる。 在庫を抱えなくてすむ。
  • 価格が若い人に手が届く設定 絹よりセオαの方が人気とのこと。

「絹至上主義ではなくなっている」という言葉には、 きもの好きとして深く納得しました。

なぜなら、街着として気軽に着るのなら、お手入れしやすい素材が選ばれるのは当然だと、いち着物好きとして思うからです。

私は中古の絹の着物をよく購入しますが、お手入れと将来のお直しのことを考えると、いっそ洗える着物を新しく買うほうが良いのではないかと、最近よく思うようになりました。

絹の着心地、手触り、加工の見事さは言うまでもなく素晴らしいのですが、コロナ禍を経た現在の衛生観念からすれば、手軽に洗えるメリットはそれだけで破壊的なほど大きいのではないでしょうか。

きもの文化を残すための挑戦

🍀居内商店さんのシマエナガ半幅帯(商品ページより引用)

居内商店さんはこう語ります。

頑なに従来のやり方を守って衰退していくのをただ見ているより、着る文化としてきものを残すためにいろいろチャレンジしたい。

この言葉に深く胸に残りました。

きもの沼にハマると、 手仕事への愛はどんどん深まるもの。

でもその前段階で、「高いから無理」「お手入れが大変だから無理」と嫌いになってしまうのは、あまりにも惜しい。

まずは気軽に着られる一枚から。 そこから世界が広がる。

その通りだと思います。

「今までにない意匠」を作りたい

居内商店さんは最後にこう結びます。

デジタルきもので今までにない意匠を作りたい。それができたら、きものは成長産業だと思います。

夢が広がる言葉です。

どんなきものが生まれるのか、 想像するだけで楽しい。

もし「こんなことができるんだ」と驚いて、「着てみたい」と思えたら── 私も買うかもしれません。

居内商店(ゴフクヤサンドットコム)の公式サイトはこちらです。

この本が描いているのは「きものの現在地と未来」

『きものめぐり 誰が袖わが袖』は、 きものが日常着ではなくなった現代において、

きものはこれからどうなっていくのか?

という問いを軸に、 日本各地の染め人・織り人、産地の現場、最新技術、職人の思いをたずね歩いた紀行エッセイでした。

伝統の技からデジタル捺染のような新しい技術まで、「きものをつくる人」「きものを着る人」の両方の視点で語られているのが特徴です。

どこから読んでも楽しめる構成で、 きものの“今”と“これから”を静かに、丁寧にひもといてくれる一冊です。

また、青木奈緒さんの文章には、きものを愛する着手としての感性と、対象を丁寧に見つめる静かな観察眼が宿っています。

そこに、幸田家四代の文筆家に通底するお江戸の気風を思わせる歯切れのよいリズムが重なり、読後に清冽な印象を残しました。

関連リンク

青木奈緒さんの文章の背景にある幸田家の女性の作品に関しては、以下のような書評があります。
興味のある方は、こちらもどうぞ。


幸田文『きもの』書評①|“こしらえる”という言葉に感じたノスタルジー
幸田文著『きもの』書評②|女がきものをこしらえる時
書評:幸田文『番茶菓子』――“ほんとのおしゃれ”をめぐる、静謐な贈りものの物語

編集後記

伝統と新しい技術について考えさせられた本でした。
手仕事への畏敬と憧憬はより深まりましたが、現代の技術に対する見方も変わったように思います。

そこでここからは、普段のきもの時間を少し軽くしてくれるアイテムをいくつかご紹介したいと思います。

🍀デジタル捺染のスカーフ&バッグ(楽天)
和装にも合わせやすいと紹介されている、デジタル捺染のアイテム。
軽やかな色柄で、普段着きものにも自然になじみます。


🍀洗える着物(ポリエステル)
軽くて扱いやすい、現代の普段着きもの。
自宅で洗えるので、季節の変わり目や日常の外出にも気軽に使えます。
色柄が豊富で、初めての一枚としても選びやすい素材です。


🍀洗える着物・単衣(ポリエステル)
東レセオαに楊柳のシボを施した、涼しい単衣。
さらりとした肌ざわりで、汗ばむ季節も快適に過ごせます。
軽くて扱いやすく、普段着きものとして選びやすい一枚です。


🍀京袋帯(ポリエステル)
普段着きものに合わせやすい、扱いやすいポリエステルの名古屋帯です。
軽くて締めやすく、日常の外出にも気軽に使える一本。
落ち着いた色合いの中に少しだけ個性があり、現代きものの素材感と相性の良い帯として、装いを整えてくれます。


🍀ハリネズミの道|青木奈緒(電子書籍)
幸田露伴・幸田文・青木玉へと続く家系の流れの中で、奈緒さんの新しい感性が芽生えたデビュー作。
南ドイツの学生寮で過ごした、美しい季節の記憶と、心をひらいて語り合った友とのふれあいが静かに綴られています。
長篇エッセイならではの余白が心地よく、ゆっくり読みたくなる一冊です。


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