『美しいキモノ2026春』を読む①藤の帯が美しく馴染む着物|茜染めの紬が教えてくれたこと

書評

写実的な花の帯って、美しいけれど難しい――。

手持ちの濃紺の大島紬に藤の花の帯をあわせたとき、どこかしっくりこなかった理由が、今ひとつわからずにいました。
藤の花の帯が大島紬に合わなかった話はこちら


けれど、『美しいキモノ2026春号』掲載の紬のコーディネートを見て、感じるところがありました。


『美しいキモノ 2026春号』はメルカリにも出品されています

沢口靖子さんがまとう茜染めの紬

ここで取り上げるのは、沢口靖子さんが着用されている茜染めの紬。


コーディネートの全体写真は、染織作家・上原晴子さんの公式サイトでもご覧いただけます。
▶︎ 沢口靖子さん着用の茜染め紬コーデはこちら(上原晴子さん公式サイト)



茜色が春のあけぼの光のようにかすれ、文様としては横段の構成なのだけれど、絵羽で段がきれいに揃っているため、どこか熨斗目のような帯状の連なりを思わせるところがあります。
たて縞模様の直線も入っているのに、どこか柔らかい。

衿まわりの模様が少し変則的で、そこにリズムが生まれているのが洒落ていて、 熨斗目の“かっちり感”とはまた違う、女性らしい余韻が漂います。

そこに藤の花の帯が重なると、晩春の豊潤さがふわりと立ちのぼる。
まるで、朝の光を織り込んだような紬に、藤の花がそっと季節の香りを添えているようです。

私が特に心を奪われたのが、 小物のコーディネート。
帯まわりに添えられた紺の帯締めと黄色の帯揚げがすごく素敵で。

帯締めの上下にわずかに入る黄色の差し色が、まるで“夜明け前の空に残る青”と、そこへ差し込む“最初の光”のように見えてくるのです。

茜染めのやわらかな赤は、まさに曙(あけぼの)の色
夜の名残と朝の兆しがさりげなく重なるような帯締めの配色が、コーディネート全体を引き締めて、春の夜明けの物語を添えているように感じました。

そういえば以前、 母から譲り受けたオレンジ色の帯が“曙色”だと気づいたことがありました。
日本の伝統色を読み解いたときの小さな発見です。
曙色に気づいた話はこちらです。

今回の茜染めの紬にも、あのとき感じた“朝の気配”が確かに流れている。
そんなふうに思えたのです。

熨斗目(のしめ)と束ね熨斗(のし)の違い

ところで「のしめ」と聞くと、男児の祝い着を思い浮かべる方も多いかもしれません。
段や縞が帯状に重なる、すっきりとした柄付けです。



女物の紬にも、この“熨斗目”の構成がよく見られます。
模様の構成と雰囲気がよく分かる紬を参考として付しました。


紛らわしいのが、束ね熨斗の模様。
こちらは振袖などに使われる華やかな吉祥文様です。
曲線の動きが特徴で、お祝いの意味を持つ柄です。


藤の帯が大島紬に合わなかった理由

そして、ここからが今回の“気づき”です。

以前、大島紬に藤の帯を合わせたときにぱっとしなかったのは、色ではなく「世界観」が違っていたからだと気づきました。

大島のすっきりとした粋(いき)と、藤の花の優美さ。
方向性がまったく違っていたのです。

今日取り上げたこの茜染めの紬は、 春の豊潤な光を含んだような柔らかさと、植物染めならではの深い陰影があります。
だからこそ、藤の帯の“晩春の情緒”とぴたりと重なる。

紬でも、これほど優美な世界観を持つ一枚なら、藤の花の帯がしっとりと馴染むのだと感じました。

藤の帯は“色合わせ”より“世界観合わせ”

藤の帯は“色合わせ”より“世界観合わせ”。


すっきりとした粋より、湿度と陰影のある着物。



直線が入っていて格式高い絵羽紬でも、茜のように優美で可憐なニュアンスのある色ならよく馴染む。

今回のコーデは、 藤の花の帯の使い方を教えてくれる、正解のひとつと感じたのでした。


▶ 夏の帯締め(衿秀)
▶ 夏の帯揚げ(京都三浦清商店・濃い色)
▶ハンディファン手持ち扇風機

関連リンク

🍀参考:腰原きもの工房(公式サイト)

沢口靖子さん着用の藤の花の帯を手がけた工房。
作品づくりの背景や、作家さんの世界観を知りたい方に。

🍀参考:染織作家・上原晴子さんの公式サイト

沢口靖子さん着用の茜染の紬織絵羽を制作した作家さんのサイトです。
藤の花の帯を手がけた工房。
作品づくりの背景や、作家さんの世界観を知りたい方に。

🍀参考:腰原きもの工房・腰原淳策さんの帯(楽天市場)

今回コーデの藤の花の帯を手がけた腰原きもの工房さんの作品。
作家さんは違いますが、作風の参考としてご覧ください。


🍀十日町友禅「秀美」の藤の帯
『美しいキモノ』掲載の帯とは違いますが、参考までに載せておきます。
ちりめん地に房の長い藤の花が優美に描かれています。
花の色合いに変化があり、前帯の柄が違うところも魅力です。


🍀誌面で使われていた帯締めは、濃紺に黄色がわずかに入る“夜明けの色”のような一本でした。
同じようなものを探してみたのですが、残念ながら見つからず。
こちらの藍と白の階調が美しい帯締めが、今回の“あけぼのの物語”に最も近いと感じたので、参考までに載せておきます。


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